[ザ・プロジェクト]
現場の意識を変えた「改革の実感」─鴻池運輸が挑む国際物流DXの舞台裏
2022年8月25日(木)指田 昌夫(フリーランスライター)
1880(明治13)年創業という長い歴史を持つ総合物流会社の鴻池運輸。KONOIKEグループ国内200・海外30以上の拠点を擁し、国内外の物流サービスと、製造業やサービス業をトータルで支援する請負サービスを軸にグローバルビジネスを展開している。そんな同社がグループを挙げたデジタルトランスフォーメーション(DX)の一環で取り組むのが、強みの港湾運送から発展した国際物流事業の業務改革である。本誌の取材で、改革を牽引するリーダーが老舗企業ゆえの課題も含めて、取り組みの舞台裏を明かしてくれた。
現場の重労働から人を切り離す改革
地球規模のサプライチェーンによって経済活動が成り立っている昨今、ロシアのウクライナ侵攻や主要国のブロック経済化、さらに世界各地で起きる自然災害が与える影響が深刻度を増している。その中で、モノの流れを支える物流業界にかかる期待と責任は、これまで以上に高まっている。
外部環境の変化だけではない。構造的な課題もある。今後の労働人口減少と、スキルのミスマッチが急速に進むことで、運輸・物流業界でも働き方の抜本的な変革が急務となっている。こうして内外の課題が山積するなか、鴻池運輸は、フィールド改革をはじめとするデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することで、人と技術が共存する運輸業への進化を目指している。
鴻池運輸は1880(明治13)年、創業者の鴻池忠治郎氏が大阪市此花区で始めた運送業に端を発する物流業者でありながら、製造業やサービス業の製造・業務請負も行う、世界的にも珍しい事業モデルを構築している企業である(写真1)。
例えば、オレンジジュースを例に取ると、一般の物流業者は、3PL(3rd Party Logistics)サービスとして、食品メーカーが作った製品を保管して配送する部分だけを担う。それが鴻池運輸では、原材料であるオレンジの受け入れから調合、充填、倉庫管理を経て製品の配送まで担う3PP(3rd Party Production)サービスを提供する。物流と製造をワンストップで請け負うため、メーカーは効率的な生産と在庫管理が可能となる。
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さらには、今後の事業戦略として、3PL/3PPにコンサルティング要素を加えた4PL+4PPサービスを見据えている。その際に欠かせないのが自動化やロボティクス、AIといった先端技術であり、まさに人と技術の共存、ハイブリッドが目指されている(図1)。
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すでに現場では、労働力不足、担い手不足を解消し、業務効率化を進めるテクノロジーの導入が加速している。例えば、製鉄原料を貯蔵する原料ヤードでは、総延長が60kmにも達するコンベアを点検する業務がある。従来は人がラインに沿って歩いて点検していたが、赤外線カメラを搭載したドローンの導入によって点検時間を約83%短縮。ラインの下にこぼれ落ちる鉱石を掻き出す作業にも専用のロボットを独自開発し、暑く危険な作業から作業員を解放した(図2)。
テクノロジーの活用で現場作業が改善されることがわかり、社員はやる気になっている。だが、鴻池運輸のDXをリードする、同社 取締役専務 執行役員の鴻池忠嗣氏(写真2)は、ここまで来るのが大変だったとして、次のように振り返る。
「最初は四面楚歌。なぜこんな儲からないことに多額の投資を行うのかと言われました。人手不足は理解しているのに、いざ解決策を持ち出すと拒否されることの繰り返しでしたが、取り組みを続けてきたことで、実際に収益に貢献することがわかり、潮目が変わってきました」(鴻池氏)
例えば、前記した鉄鋼部門の改革後は、人件費が減る分、売り上げは減少したが、利益は大きく増加している。「効率化によってお客様にとっては支払いが減り、当社は利益が増加するという、双方にとってメリットがある改革が実現しました」(鴻池氏)。
電話とファクスの“昭和な現場”から脱却する
こうしてテクノロジーを駆使しながらフィールド改革を進めるのと同時に、鴻池運輸は、国際物流を支える情報システムの改革にも動く。業界に先駆けて輸出業務のオンライン見積、商談依頼のシステムを構築するなど、数々の基盤強化を重ねてきた。
だが、依頼主から受注後に荷物を預かり、海外の目的地に届けるフォワーディング業務においては、その管理は、昔と変わらず大量の紙伝票と電話・ファクスによる情報伝達が行われていた。日々、事務所には荷主からの問い合わせ電話が鳴り止まず、デジタル化が進む中で、まさにポツンと“昭和な現場”が取り残されている状態だった。
物流業界は顧客の利便性を考え、あらゆる輸送手段を駆使して地球上のどこにでも荷物を運ぶことに精力を注いできた。その目的は、ほぼ達成されたと言っていい。しかし、そのための輸送手段の連携は、ことごとく紙の伝票の書き換えと人手による手配、確認が積み重なり、複雑化していった歴史がある。労働人口が減少していくなか、マンパワーに頼った事業の拡大はもはや難しい。
「昭和の時代、旅行や出張の手配をする際は旅行代理店に電話をかけて、航空便やホテルの予約をしていました。しかし、今はWebで予約して確認できるのが当たり前です。ところが、運輸に関してはまだ昭和の商流が続いており、今でも『あの件はどうなった?』と電話で確認を取る状況が続いていたのです」(鴻池氏)
変革のきっかけは、2019年に、海外で始まっていたデジタルフォワーディングに着目したことだった。見積もりから手配、輸送の進捗確認まですべてオンライン上で管理できるシステムを、欧米の運輸・物流会社がいち早く採り入れていたのだ。このままでは日本の運輸・物流業界は取り残されると感じた同社は早速、検討プロジェクトをスタートさせた。
だが当初、フォワーディング業務の担当者たちの間では、「今までどおりでいい」という意見が大勢を占めていた。長年の業務スタイルに慣れ切っており、チームの流れ作業でこなせるから問題ない──そんな雰囲気が現場を支配していたのである。
しかし、このままではいずれ立ち行かなくなる。どうすれば現場の意識を変えられるのか。開発チームが検討の末にたどり着いたのが「動くものを作って見せる」ことだった。鴻池氏はこう説明する。
「机上でいくら説明しても現場は理解できません。そこで、最初にプログラムが入っていない、画面だけのモックアップを作り、それを見せながら、これがデジタルの仕事のしかただということを理解してもらいました」
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