日本の建設業は零細企業が多く、長時間労働や高齢化、人手不足などの課題を抱えている。さらに、2024年問題や資材高騰などの影響も深刻である。課題解決に向けて、建設業界では、建設ロボットの導入や重機操作の自動化、遠隔操縦などDXへの取り組みが進んでいる。しかし、大手企業と下請けの中小企業との間でデジタル化の格差があり、DXの推進には困難も伴う。
日本の産業界にはさまざまな業界があり、自分が属している業界を除くと知らないことが意外に多い。そのため他業界の現場を見学すると、違いが実感としてよく分かるものだ。長く建設業界にいた筆者はよく製造業や流通業などの現場を見学させてもらうが、プロセスやマネジメントの違いを知って参考になることも多い。
建設業は現地生産型の製造業のような面があるが、一品生産であるし、プロジェクト型でマネジメントするところが機械や電機などの製造業とは異なるところだ。そんな建設業でも、ご多分に漏れずデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが進む。他業界の方々にその実態を知ってもらいたいので、今回は建設業の概観や背景を含めて紹介しよう。
建設業は1社平均10名の零細企業が大半
日本の建設業は許可制になっていて、業界団体である日本建設業連合会(日建連)がまとめた「建設業デジタルハンドブック」によると、登録会社数は約48万社、就業者数は約480万人である。つまり1社平均10名の就業者で構成される、零細企業が多い業界だ(図1・図2)。
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労働時間は、他産業に比べて明らかに長い。業種ごとの月間実労働時間などを調べた厚生労働省のデータによると、建設業における2022年の月間実労働時間は163.5時間。全業種平均のそれが136.1時間だった。建設業も機械化や自動化に取り組んでいるが、製造業の工場と違って人為的な作業が多いことから、労働時間の長さは宿命的なものがある。
ほとんどが請負工事をしており、元請け会社とサブコン(サブコントラクター)と呼ばれる専門工事会社が一体になってプロジェクトを実施する。繁閑の差を吸収するため、そこには典型的な多重請負構造がある。
工事は、建築と土木に大別される。建築工事は多くが民間発注で、設計、建築工事、設備工事と分業化が進んでいる。土木工事は官公庁の発注が多く、都市土木、港湾土木、橋梁、トンネル、ダムなど多種多様な社会インフラを担っている。
“2024年問題”はじめ、建設業が抱えている課題
建設業は典型的な労働集約産業であり、労務に関する課題は多い。学生の人気は低く、必然的に他産業に比べて高齢者の割合が高く、年々その傾向が強くなっている。産業としての将来の持続可能性を確保することが大きな課題の1つである。
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そこに今年から適用が始まった労働時間の規制が重くのし掛かる。いわゆる“建設業2024年問題”だ。5年前から予告されていたとはいえ、年間平均労働時間が約2000時間もある業界だけに、容易に軌道修正できない実情がある。
資材や労務費の高騰も大きな問題である。資材は20~80%、労務費は10~20%上がり、全建設コストの平均値は21%~24%も上昇している。ウクライナ危機の影響を受けて資材の納期遅延も起こっていて、工期を圧迫する要因になっている。
これらプロジェクトの延期、および請負代金の変更や工期延長に関する協議を引き起こしている。受注者にとって代金変更などは死活問題だからだが、発注者にしても容易に受け入れられることではない。発注者側にも受注者側にも大きな負担となっている。
●Next:道のりは険しいが……建設DXに向けた建設会社や国土交通省の動き
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